向き合うのではなく、共に流れる

2018年度公式プログラム「学校連携プロジェクト」の参加アーティスト、小原風子さんにインタビュー。講師として招かれた小原さんは、子どもたちから何を学んだのでしょうか。

INTERVIEW

小原 風子 | 絵本作家・アーティスト

向き合うのではなく、共に流れる

学校教育の場にアーティストが入り、子どもたちと一緒に作品づくりを行うと、その場にはどんなことが起きるのか。福島藝術計画では、この数年、教育の現場にアーティストを派遣してプログラムを行う「学校連携プロジェクト」を行ってきました。2018年度は、南相馬市在住のアーティスト・絵本作家である小原風子さんを講師に迎えたワークショップを開催。その小原さんがワークショップを通じて学んだこととは。

取材・構成:小松理虔(ヘキレキ舎)

 

—今回、学校連携プロジェクトのアーティストとして声がかかったきっかけはどのようなことだったんでしょうか?

霊山町にある「こどもの村」で絵描きをしながら働いています。当時県立美術館の学芸員だった國島さんから、こどもの村でワークショップをしてみないかと話を頂いたことが、そもそものきっかけでした。

こどもの村では、その時「絵本カーニバル」という企画展を開催しており、県美に作品がある大岩オスカールさんの「はじめてアート」という絵本から、広がっていくようなワークショップをしてみようかということになったのです。

オスカールさんの絵本を朗読したり、その絵本に出てくる絵を使ってプロジェクションマッピングをしたり、布に絵をかいて大きな宇宙を作ってみたり。最終的には、その布をみんなで持って滑り台を降りることになったのですが、本当に大騒ぎで。県美の学芸員のみなさんや、こどもの村のスタッフ、高校生ボランティアさんそして、こどもの村に来てくれたこどもたち、みんなで創ったワークショップでした。そのときの子どもたちがのびのびして良かったなぁ!これを学校でもやってみないですか〜?と、また声をかけて頂いたんです。

これまでの学校連携ワークショップは一般のクラスが対象でしたが、今回は初めて「ふれあい教室」の中学生とも開催するという計画がありました。学校に行ける日もあれば行けない日もある、そういう子どもたちと関わるのは自分にとってもなんだかいいタイミングだなと思いました。それで今回参加させて頂いたという流れです。

 

小原さんが作画を担当した絵本たち

 

—どんなワークショップを行ったのですか?

木の実人形を使ったフォト絵本とコマドリアニメーションの制作です。震災後、自然のなかで五感を目一杯使って想像したり、自然を感じる機会が奪われたまま育った子どもたちが多いので、自然にあるものを使いながら、その子たちのイマジネーションの扉が開いたり、そのボタンが押されるようなことがしたいと思っていました。

わたしがつくった絵本に登場するのが、栃の実の「トッチーさん」でした。こどもたちも、木の実を使ってみんなでそれぞれにトッチーさんの兄弟を作ったり、自分のオリジナルのキャラクターを作ったりして、想いおもいの場所に置いて写真を撮り、それをつなぎ合わせて絵本を作りました。小学生はフォト絵本を作るところまでで、中学生はちょっとずつコマドリを撮影して映像にするところまでやりました。

 

木の実人形を使ったフォト絵本とコマドリアニメーション

 

ワークショップは木の実人形を作るところからはじまる

 

子どもたちは思い思いの物語を思い浮かべながら撮影をしていった

 

私は以前から原始的な遊びが大好きでした。例えばコマドリの映像も、最先端の映像というより、ノートの端に絵を書いて棒人間が走ったりジャンプしたりというシンプルなものですよね。だからこそ動かないものに命が宿るような感覚が生まれる。それを子どもたちが体験したら、どうなるかなぁ?!と。

ところが、「ふれあい教室」での実際のワークショップは、ほとんど計画通りには進みませんでした。ひとりでやりたい子もいれば、初回は来たけど2回目に休んじゃう子たちもいますし、それぞれスイッチが入るタイミングも違います。本を読んでいたいという子もいたり。どうしよう、混ざらないなあと、とても悩みました。なぜかというと、私がきっと、これをやろうと誘導しちゃっていたんですね。今思うと、そのただ本を読んでることだって、ひとりでつくることだってとても大切な時間なのに…。

学校の先生たちも、子どもたちに良かれと思っていろいろなアドバイスをしてしまうものです。大人が引っ張ってしまったダメだと思って、「みんな今日はどうだった?」と聞いてみたことがあるんです。そうしたら、ある男の子が「僕なんか凡人で、先生たちはすごいアートに長けているなと思いました」と言ったんですね。その時、なんてことを子どもに言わせてしまったんだろうと思いました。そしてその子に心からごめんねと謝りました。

 

—ワークショップに慣れているはずの風子さんも想定外のことが起きたわけですね。その場はどのように展開していったんですか?

美術館に戻ってから学芸員の皆さんと話し合いました。こどもたちと関わるとき、作品の完成度じゃなくて、その過程がほんとうに大事なんだなと思うと、以前中学校の先生をしていた学芸員の大北さんから話をきいて、すうっと心が落ち着きました。

先生たちもこどもたちとは別に制作チームを作ってもらったらどうだろうということにも!こどもたちにアドバイスするのではなく先生たちも、それぞれ本気でつくって下さったら、お互いすごくいい空気になるんじゃないかって。

子どもたちが、学校に行けなくなったりするのは、きっとすごく感性豊かでいろんなことを感じ取ってしまうからかな。それでわたしや先生の期待にも応えたいと思ってしまったのかもしれない。だから私たちはこんどは黙ってることにしたんです。

おかげで3回目はとても充実しました。アイデアが出てきて止まらない子たちや、これまでお互いにほとんど喋ったこともない男の子たちたちが仲良しになってしまったり。葛飾北斎が大好きな女の子はひとりで作り続けていましたが、その子の作品も涙が出そうなくらい素敵でした。それぞれみんな心にもっているストーリーがぽろんって出てきたんです。

不登校というと良くないイメージを持たれがちだけど、みんな繊細だったり、アイデアが湧きすぎちゃうから学校で決められたリズムに合わないだけなんじゃないかな。その子のタイミングやリズムで取り組めたら、逆にすごい強い力を発揮できる子たちばっかりでした。

そこで学んだのは、相手に委ねると、その子たちの世界がワーって開いてくるということです。教える側の我が出すぎちゃうと広がらなくなっちゃう。けれど、ただ一緒にいて、子どもたちが悩んでどうしようっていう時だけ「どうしよか?」って言うだけでいいんですよね。学ばされたのは私たちだったんです。

 

当時を思い返しながら力強く語る小原さん

 

—その時間を一緒にいるということ。それだけでいいのかもしれませんね。

そうですね。絵本作家としての自分にも大きな経験でした。以前絵本作家の卵としてイタリアのボローニャに行ったとき、あちらの方に「This is your poetry book, not children’s book.」と言われたんです。お前のポエム描いてんじゃねーよ、ってことですよね。絵本は、私の詩ではなくて、子供たちが描いてゆく風景を描かなくちゃいけない。絵本だけでなくワークショップもそうだなあといま改めて思っています。

だけれど、子どもに預けなさい、自由にさせなさいと言葉で言っても、それはまた変ですよね。「自由って何?」って感じで子どもたちも迷ってしまうし。私もまだわからないけど、大事なのは「待つ」と言うことかもしれません。スイッチボタンが入るタイミングってちょっとずつそれぞれ違うんだけど、なんで日本はそれを全部合わせてしまうのかなって。合わせなくていいんですよね。

以前、こどもの村のスタッフの女性から、こんな話を聞きました。「私が小学生の時、絵を描いていて土の色をオレンジで塗ったら、先生から土の色はそんな色じゃないでしょう、茶色でしょうって言われて、それから自分はダメなんだと思って美術が好きではなくなってしまったの」と。

美術の時間に答えあわせなんて必要ないし、なんなら、ほかの授業だってそうだと思います。1+1=2じゃなくて、何を足せば10になるのか、その選択肢を一緒に考えるのが授業です。ひとつの答えじゃない。みんなのそれぞれの答えを待つような美術の時間があってもいいはずなんですけどね。

 

—町づくり的な観点からアートプロジェクトが開催されることも増えていますが、そういうところで、動員や経済効果ばかりが持ち出されます。風子さんのいうような「待つこと」はだんだん難しくなってしまっています。

そうですね。ふれあい学級だと10人くらいしかいないので、もっと人数を動員できるような企画が求められているのかもしれません。けれど、ほんとうは、ひとり子の心に何か感じてもらえたらそれでいいはず。そこに行けば何かあるんじゃないか、気持ちいいことできるんじゃないかって思って来てくれる子がひとりでもいい。

私も小さい時は喋れない子だったんです。いつも行っちゃいけないって言われていた畑のほうに飛び出して言って、動物と遊んだりしていました。けれど、小学校に入ったらダメになっちゃった。萎縮しちゃっていたのかもしれません。けれども、二年生の時、国語の授業で手をあげたら「フウコちゃんが手を上げてくれて本当に嬉しい」って喜んでくれて。先生からこっそり色鉛筆をもらっちゃったんです。それから前向きになれました。何かのきっかけで子どもたちは大きく変わる。だからこそ、ひとりひとりをしっかり見ていないといけないんじゃないかと。

こどもの村でワークショップでお世話になった方がこんなことを言っていました。「子どもたちには向き合うんじゃない。一緒に流れていくんだよ、川みたいにね」って。向き合うと、こっちも何かしないといけない、教えてあげないとって思ってしまうし、成果も出さないとと焦ってしまうけど、一緒に流れればいいんですね。そうじゃないと子どもたちのスイッチを見逃してしまう。だから向き合うんじゃなく一緒に流れる。その言葉と現実が結びついたのが、今回のワークショップでしたね。

私は南相馬でサーフィンもするんですよ。福島市に住んでいた時からちょくちょくきていました。本当に上手なサーファーは波を壊さずに波と一緒に流れていくだけなんです。向き合わない。一緒に流れる。そして待つ。絵本作家としても、ワークショップに関わる作家としても、サーファーとしても、とても大事なことを子どもたちに教えてもらった気がします。

 

 

プロフィール 小原風子(おばら・ふうこ)
1971年 福島県出身
東京藝術大学で日本画を学んだ後、帰郷。
チルドレンズミュージアムにて、こどもたちと関わる仕事を続けながら、南相馬の海のそばで絵や絵本の制作をしている。
2012年『僕らの海』
2015年『もこもこ雲のテラドラゴン』を自主出版。