森から福島を、地域を問い直す

福島で起きた問題を森から問い直し、芸術の力で福島を再興しようという「森のはこ舟アートプロジェクト」。ディレクターの伊藤達矢さんに、なぜいま「森」なのかを伺ってきました。

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伊藤 達矢さん(森のはこ舟アートプロジェクト ディレクター)

森から福島を、地域を問い直す

福島で起きた問題を「森」から問い直し、芸術の力によって福島を再興しようというのが「森のはこ舟アートプロジェクト」。福島藝術計画×Art Support Tohoku-Tokyoのメイン事業でもあり、会津地区を舞台に繰り広げられる大型アートプロジェクトです。そこで今回は同プロジェクト、ディレクターの伊藤達矢さんに話を伺い、なぜいま「森」なのかを中心に話を伺ってきました。

―まずは、森のはこ舟プロジェクトがスタートした経緯から教えて下さい。

「森のはこ舟アートプロジェクト」は、平成30年に福島県に招致される全国植樹祭のプレ事業という位置づけで取り組んでいます。この植樹祭を、当日限りの単なるセレモニーで終わらせるのではなく、植樹際までの時間を大切にして、1本の木を育てて行くように町や地域の文化をもう一度読み返し、地域の文化資源をいっそう育めるような文化事業を、アーティストと共に展開しています。

そもそも「森」がキーワードになったのは、福島の文化と森は切っても切り離せない密接な関係にあるからです。福島の森は今、福島第一原発の事故によって傷つけられ、大きなダメージを受けています。例えば、森と共に育んできた福島の食文化など含め、依然として放射能の問題があります。この地に人が暮らしはじめた時から続く森と人の関わりのなかに、とても難しい問題が生まれてしまいました。

そうしたとりとめのない問題を捕らえる糸口として、福島の文化の源流とも言える森と人との関わりを、アートを介して考え、今の私たちの生活そのものを問い直しせればと思っています。そして、そうした意識と育んで来た文化を未来へと届けて行きたい、そんな思いが「森のはこ舟」というテーマには込められています。

―確かに福島というと、浜通りの沿岸部以外の多くの土地に森があり、山があります。福島県=森の文化ですね。

福島県の森林面積は70%と言われています。県土のほとんどが森と言っていいでしょう。福島に住んでいると日常的になってしまうかもしれませんが、福島の暮らしと森は本当に近い距離にあると思います。その日常にアーティストは光を当て、地域の皆さんと一緒になって森の中にある物語を見つけ、森から学び、また新しい価値を育んでゆく、そんな時間と場所がこのプロジェクトから生まれていると感じています。

―アーティストと、そこに暮らす人たちにとっては放射性物質の認識ひとつとっても大きな差があると思いますが、そのような差を乗り越え、アーティストはどのようにして地元の方との信頼関係を構築しているのですか?

森のはこ舟アートプロジェクトでは、喜多方市、西会津町、三島町、猪苗代町、北塩原村という5つの地域にアーティストが入っています。特に喜多方市、西会津町、三島町には、アーティストが来る前から地元のNPOなどを中心にした「ワーキンググループ」があり、地域の中に入ってアーティストと地域をつなぐ活動をしています。地域の人たちとのコミュニケーションの場を増やし、その土地ならではの物語や、あるいはニーズなどをリサーチするわけです。

もちろん、放射能による難しさがあるのは事実です。しかし、その難しさを放置するのでも回避するのでもなく、その難しさもひっくるめて引き受けられるのがアーティストなんだと思うんです。例えば、三島町にはEAT & ART TAROさんという、食をテーマに活動しているアーティストが入っています。彼はこの地に伝わる「トチ餅」をつくる行程を題材にした紙芝居を作る活動をしていました。トチ餅を作るには、トチの灰汁を抜くために藁の灰を使うんですが、その灰を調べてみると放射性物の反応が出る場合があるんです。そうした時には県外産の藁で灰をつくらなくてはならない。でも、そういう問題すらも作品をつくるプロセスとして、地域の人々と共有しながら進めて行くわけです。

今の地域をしっかりと見つめ、咀嚼してゆくと言うか。そういったプロセスを体験することが、むしろアートプロジェクトでは大切なんだと思っています。アーティストが入り込んで共に発見、体験していくことで、地域の人たちだけではなかなかできない森へのアプローチもできるようになると感じます。

00f90ad1c076beb59b3cd0f5752563f031671579d854db6ef3f109986dfdec35ART & EAT TAROさんを交えた栃モチづくり(左)。三島の皆さんとの新潟「大地の芸術祭」への視察(右)

―そのほかにはどのような活動がありましたか?

西会津町では片桐功敦さんという華道家のアーティストが入り「草木をまとって山のかみさま」というワークショップを開催しました。山に入って野草や花を摘んできて、子どもたちと大人が一緒にその野草をまとうというプログラムです。西会津町は山岳信仰の根強い場所で、森に棲む精霊や多様な命を畏れ敬ってきました。しかし、原発事故以降は山と人々の暮らしの中にどこか溝ができてしまったように感じられる部分もありました。

そうした背景のなかで開催されたのが片桐さんのワークショップで、片桐さんと一緒にワークショップの参加者も山に入り、草木を摘んでくる。そして、それを皆でまとうわけです。もちろん、線量計で放射線量を確認したりもします。それで、数字出てないねと。こうしたワークショップを通して、森の今が深く理解されていけばいいなと思います。

でも、理解すると言っても、線量を示す数字などの科学的な情報を得るということではないんです。そうではなくて、参加してくれた人、めいめいの価値観や感覚、行動を通して、本質をゆっくりと懐に落としていくこと、それがアートを介して物事を理解することだと思います。本当の意味で、手触りを感じながら、学ぶことなんだと思います。片桐さんのワークショップは、地域の方に引継がれて、これからは片桐さんがいなくても開催れるようになりつつあります。こうした展開は嬉しいですね。

IMG_0736DSC_0416片桐功敦のプログラムでは、草木をまとった子どもたちが山の精霊たちと触れ合った

―アーティストが来るということが注目されますが、森のはこ舟の場合は、そのワーキンググループの存在も鍵を握りそうですね。

面白いのは、運営に参加してくれているNPOのほとんどがアートを主軸にした団体ではないということです。三島町のNPOわくわく奥会津.comは、そば、お酒などをつくり地域振興をしている団体です。アートは専門としない団体が、アーティストと住民の間に入り、ある種「コミュニケーター」として動いて下さっている。それがまちづくりとも密接に関わりながら、プロジェクトが進んでいくんです。

こうした活動でもっとも重要なのは、アーティストが先生役になって何かを教えたり提供していくことではなく、アーティストがきっかけになって地域の人が自立し、自分たちの強みと魅力が何であるかを自覚し、自分たちの未来を自分たちの手で決めていく力をつけることなんです。森のはこ舟アートプロジェクトがなくなったとしても、自分たちで、あるいは隣の地域と連携してそうした関係が継続されること。それが理想です。

実際、NPO同士の連携はすでに生まれいて、今年の春に「NPOふくしまアートネットワーク」という組織もできました。県内にある様々なNPOをアートを介してつなげて行くことを目的とした団体です。地域の価値を見直すこと、地縁血縁のつながりとはまた違った「文化縁」とも言える新しいコミュニティの在り方を示していければと思っています。「社会的包摂」という言葉もありますが、こうしたつながりを素地にして、防災やまちづくりとも関わりながら、誰もが守り守られるようなネットワーク力のある強い福島を作って行きたいですね。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAアートディレクターの伊藤達矢さん。会津と東京を往復する日々

―森を見直していくことが、地域を見直していくことにつながるという流れがよくわかりました。その大きな「きっかけ」となるのがアートなのですね。

森というキーワードによって、いろいろな人たちがまなざしを共有できるはずです。それはもちろん浜通りの人たちも含めてです。浜通りにも、たくさん森があるし、その森は海にも繋がっていますから。地域の森と森が、アーティストがきっかけで繋がり合っていく。そんな動きを平成30年の植樹祭まで続けたいと思っています。

今は、森の生態のように人々の暮らしや思考も多様化していくこと、そしてその多様性が尊重されるということが求められているように感じます。これからの社会を設計する上でも、もちろん行政に対する期待もありますが、行政だけでは解決できない問題に対して、わたしたちは文化芸術の力を持って参加して行ければと考えています。

行政も市民も与えられた役割だけではなく、互いに何ができるか、その垣根を越えて話し合い、それぞれが、足りない部分を補填しあう社会参加の意識と関係が保たれる社会こそ、成熟した社会と言えるのではないかと考えています。そうした社会の在り方を、アートプロジェクトを通して目指して行きたいですね。

 

profile 伊藤 達矢 (いとう・たつや)
1975年、福島県生まれ。2006年 東京藝術大学大学院芸術学美術教育専攻 修了(博士号取得)。
現在、東京藝術大学美術学部 特任准教授。
東京都美術館と東京藝術大学の連携によるアートコミュニティ形成事業「とびらプロジェクト」および、
上野公園内に集積する9つの文化施設を連携させたラーニングデザインプロジェクト「Museum Start あいうえの」では、
プロジェクト・マネージャーを務め、社会とアートを結びつける活動に従事する。