いわきには文化を創る力がある

いわきの玄玄天にアートディレクターとして関わる現代美術家の吉田重信さんに伺った玄玄天の魅力。そして、いわきのアートシーンに関する若い世代への大きな期待。

吉田 重信さん(アーティスト/まちなかアートフェスティバル「玄玄天」アートディレクター)

いわきには文化を創る力がある

今年2回目の開催となる、いわきのアートプロジェクト「玄玄天」。いわき市生まれの詩人、草野心平の詩から名付けられた企画展です。その「玄玄天」にアートディレクターとして関わるのが、現代美術家の吉田重信さん。企画の発案者であるいわきの若い世代と一緒に、展示を支えています。いわき市を代表する現代美術家は、なぜ若者たちを支える裏方に徹しているのか。そこには、吉田さんを形作った、いわきの文化の伝統の力があるようです。

―2年連続の開催、間もなくですね。吉田さんもアートディレクターとして関わってらっしゃいます。

アートディレクターと言われると何となく違和感がありますが、もともと昨年の第1回目に、いわきの若い世代から何とか協力してくれないかと頼まれてね、それで知り合いのアーティストに声をかけたり、展示についてアドバイスしたり、お手伝いすることになりました。今年は1人の作家として参加するつもりが、いつの間にかまた「アートディレクター」なんて肩書きがついてきましたね(笑)。

会場となる「もりたか屋」は、現在も洋品店として使われている建物で、玄玄天では、その2~3階の住居スペースなどを展示スペースとして使います。歴史のある空間を文化として育てていこうという、そんな若い世代の思いに応えたいという気持ちで関わることになりましたが、こうして今回も20組を超える作家さんや団体が参加してくれることは、本当にうれしく思います。

―昨年の玄玄天を振り返って、いかがでしたか?

前回の玄玄天は、はっきり「成功」だと思いますよ。あれだけたくさんの作家が、さまざまな作品を展示しましたが、まとまりもあり、コンセプトも通底していたと思います。もりたか屋だけでなく、近くのお店や駅近くのテナントビルにも展示しましたし、力のある作家に集まってもらいました。

展示については、若い世代が何しろ知識も経験もありませんから、私がほとんど指示を出しました。こういう企画展は自由がきく分、作家のいい分をみんな聞いてしまうと、展示全体のバランスが崩れてしまいます。ディレクターがしっかりとビジョンを持った上で、作家さんにも納得してもらわないといけない。でなければ、力のある展示になりませんから。そのあたりは、まだいわきの若い世代には難しいかもしれないないけれど、着実に力がついてきているとは思います。

作品を出してもらった作家の多くは、私の知り合いの作家も多くいます。私はかれこれ20年前から作家の活動をしていますが、その20年の間に知り合った若手が、数年経ってみんな成長して力をつけています。例えば玄玄天にも作品を出している君平という作家がいるのですが、最初知り合った頃はまだ大学院生でしたけれども、現在は成安造形大学の講師をしていますよ。そういう、若い活気のある作家や、脂がのり始めている作家をいわきに取り込みたいと思っています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAいわきの若い世代を厳しくも温かく見つめる吉田さん。いわきの若い力を信じているからこそ

OLYMPUS DIGITAL CAMERA会場の「もりたか屋」を管理する会田勝康さんと展示について話し合う吉田さん。親身に相談を聞く

―玄玄天は、まちなかアートフェスというコンセプトで、地域の様々な場所に展示されるのが特徴です。どのような狙いがあるのですか?

ホワイトキューブと違って、時代や歴史がしみ込んだ空気感を作品に取り込めるのが魅力ですよね。もちろん、そのしみ込んだものをそのまま利用する作家もいるし、きれいに掃除して展示する作家もいますが、それすら自由である。それが個人的にも好きなんです。

実は、商店街や通りにアート作品を飾ると言うのは、玄玄天が初めてではありません。以前は、「いわきアート散歩」という企画がありましたし、2010年には70名を超える作家が集まった「いわきアートトリエンナーレ」もありました。震災もあり、トリエンナーレは終わってしまいましたが、それを玄玄天が引き継いでいるかたちです。

それに、通りにはみ出して展示したり、市民が企画の主体になって展示を行ったり、そういう独立的な動きと言うのは、いわきの長い伝統だと思います。もともと、いわきにはそういう若い力がありました。いわき市立美術館の建設目指して動いてきたのも、地元の市民ギャラリーが中心となった団体でした。それに加え、いわきアートトリエンナーレといった地元発のアーロプロジェクトが次々に生まれてきましたし、市内のギャラリーも数多く協賛しています。そういういわきの熱感が、しっかり玄玄天には受け継がれていると思います。

美術館を作ろうという運動が始まった頃、私は20歳くらいでしたね。そのときに、市立美術館の建築に携わった先輩たちの背中を見てきただけに、今度は、次の世代に渡さなければいけないという思いがあります。

いわきには、残念ながら現代美術の作家自体は少ないのですが、東京や京都といった県外から、こうして手弁当の展覧会に作品を寄せてくれる。そしてそれがきっかけになって、「玄玄天で展示した仲間」としてのネットワークやつながりが生まれてくる。いわきには、若い人を育てていく土壌があると思っています。

―今回の見どころを教えて下さい

今回の第2回目の見どころは、現代美術というカテゴリに収まっていないところですね。アニメーションなども入ってくるし、より広い層に訴えかけることができると思います。現代美術なんてカテゴリは正直どうでもいいんですよ。若い人たちの感性で展示をして、地域の人たちがそれを面白がってくれればね。そういう中で、地元の中に文化が生まれてきて、芸術を始めたいと思う若い世代も出てくるはず。そうやって若い人でどんどん盛り上げて欲しいですね。いわきの作家を取り上げたアート展もやるのもいいんじゃないかな。いわきには、それくらいのポテンシャルは、きっとあると思いますよ。

 

profile 吉田重信(よしだ・しげのぶ)
1980年代後半から活動を始める。1991年いわき市立美術館で自然光の作品「Infinte Light」を発表後、
水戸芸術館・宇都宮美術館・広島現代美術館・川村記念美術館・岩手県立美術館・Hayward Gallery(イギリス)等の企画展に参加。
1995年から虹のワ-クショップ「虹ヲアツメル・虹ノカンサツ」と、2003年から平和を祈る「光の鳥」プロジェクトを国内外で開催。
2011年5月立体ギャラリ-射手座(京都)にて、祈りの菊1000本を使った「臨在の海」。
2012年3月Gallery Camellia(東京)では、赤い自然光と子供の靴1600足を使った「心ノ虹2012」を発表する。