地域に文化という「漢方」を処方する

いわき市の文化事業を担ういわき芸術文化交流館「いわきアリオス」。広報セクションチーフの長野隆人さんにインタビュー。文化施設の地域での役割、いわきの文化芸術について。

長野 隆人さんいわきアリオス 広報グループ チーフ)

地域に文化という「漢方」を処方する

いわき市の文化事業を担う、いわき芸術文化交流館「いわきアリオス」。2008年のオープン以降、その取り組みや建築が評価され数々の賞を受賞するなど、国内外から高く評価される文化施設です。その文化施設と市民をつなげるのが、広報セクション。チーフを務める長野隆人さんに、文化施設の地域での役割、そしていわきの文化芸術について話を伺いました。

—長野さんはアリオスオープン当初からアリオスの職員としていわきに関わり続けていらっしゃいます。他県の取り組みなどと比べ、いわきの特異性や優位性、特徴など、何か特筆すべきことは感じられますか?

いわきはやはりなんというか元気がいいです。国内のほかの地域を見ても、これだけ市民が元気な場所ってないんじゃないかなあ。いわきは、何かをやりたいという欲が強い人が多い町なのではないかと思います。私は生まれが静岡で、アリオスができる1年前の2007年にいわきに来まして、あれから10年目になりますけれど、地域それぞれに何かしらの活動している人たちが本当にたくさんいらっしゃいますよね。

大きな文化施設ができると、花火的なイベントがやはり必要で、大物アーティストを呼んだり、あるいは、施設のスペックを活かしたランドマーク的なイベントをやることも必要でしたけれども、今では、というかたぶん私たちが来る前もそうだったと思いますが、私たちが何か特別なものを用意しなくても、市民の皆さんのほうが独自に活動をしてらっしゃる。文化芸術でいえば、非常に自立性の高い地域なのかもしれません。

例えば、アートプロジェクトにしても、震災前に小名浜を拠点にした「Art ! Port! Onahama」という企画がありました。また田人地区でも「アートミーティング 田人の森に遊ぶ」という企画が10年以上も行われていますしね。こういう小さなアートプロジェクトがあちこちで開催されている。それがいわき市の面白いところですよね。もともと土壌としてとても活発なところだったわけです。

ですから、私たちが特別な何かを企画したり、主導権を握って何かを牽引するというより、やはり後方支援が役割だと思っています。皆さんのネットワークを繋げつつ、地域のキーパーソンに刺激を与えていくこと、特に震災後はそういう役割のほうが大きく期待されているところでもあると思いますし、実際に推進していかなければならないことだと思っています。

—そのほか、長野さんから見て興味深い企画は何かありますか?

そうですね、いわきを代表する企画に「いわき街なかコンサート」というのがありますよね。平地区の商店街やまちなかで、市民のバンドや太鼓チームやダンスチームが思い思いに表現するイベントですが、昨年(2015年)は2日間で250組以上が参加していました。これだけの参加者がいるのは正直すごいですよ(笑)。日本でここだけじゃないかってくらい、皆さん活発で、それぞれが勝手に町を楽しんでいる。それが素晴らしいです。

あとはやっぱりいわきアリオスの前の平中央公園で開催されている「アリオス・パークフェス」ですね。公園の中に、いろんなショップやブースが展開して、食べ物を楽しんだりパフォーマンスを見たりする小さなフェスイベントなんですが、ここ数年は、ストリートバスケやアマチュアプロレス、スケボーのパフォーマンスなんかも入ってきて、すごく刺激的な場所になってきています。

そういうストリート系のカルチャーが入って来ることで、これまでアリオスに縁の遠かった若者も来てくれるようになったし、少しでも親近感を感じられるようになってもらったんじゃないかと思います。確かに私たちも関係各所との調整役として実行委員会に入っていますけど、パークフェスのお客さんを主催公演のチケット販売に結びつけようと料簡を起こしてしまうともったいないことになる。ひたすら楽しい時間を過ごしてもらうための場として認識してもらって、自分たちが使いたいように使い倒してもらうように環境を整えることが仕事だと思っています。

9d1c0e313ed1d61502d75caf4333fa8bいわきアリオス外観。手前に広がっている平中央公園では、毎月1度「パークフェス」が開かれている

OLYMPUS DIGITAL CAMERA広報グループのチーフとして活動する長野さん。市民と表現の場を次々に繋げている

DSC5541-1024x576定期的に開催されている「あそび工房」。子どもたちの表情から、この企画の面白さが垣間見える

—それだけ職員の皆さんと市民の距離が近いということでもありますね?

そうですね、特に私たちは「広報グループ」ですから、外との連携を模索するのが仕事です。企画やコンサートのプログラムを考えるのは企画制作課のプロフェッショナルがいますからそこに任せて、私たちは長期的に種まきをしていく。それによって、だんだんと育ってきたものが、最終的には巡り巡って町を豊かにしていくんですね。

大きなイベントをどーんと1本投下して、そのために一生懸命になり過ぎて疲弊してしまうんじゃなく、なんというか「漢方薬」みたいに、とりあえず続けて投与する中で、町にいい作用がもたらされていくものだと思うんです。そうして次第に、アリオスという場所が皆さんの中で当たり前の場所になっていく。それが理想ですよね。ですから、私たちも日常的に、色々な方々と対話したり、学ばせてもらう機会をつくろうと心がけています。

例えば、毎隔月で発行している広報誌の「アリオスペーパー」というものがあるんですが、できるかぎり、市民の担い手を撮影した写真を表紙に使うようにしています。大物アーティストの写真とかではなく、あくまで市民の顔を出していきたいんです。劇場って、建物だけだと無味乾燥で、オープン当時は「巨大な棺桶が2つ並んでる」なんて悪口言われて(笑)。ハードはそうだとしても、ソフトはいろんな表情を見せていきたいですね。

—市民主体のイベントが多いせいか、いい意味で「アリオスに依存しない」雰囲気が生まれているようにも思いますね。みんなそれぞれ勝手に楽しんでいる。でも、それがいわきらしくもありますね。

2012年から小名浜で開催されている「小名浜本町通り芸術祭」は、市民自身がアーティストなんだというコンセプトで開催されています。町の人々みんなが「自分はアーティストなんだ」と自覚することは難しいけれど、アートを前にした考え方や言語というものが町に入っていって、それによってコミュニケーションを深めるということがとても大事だと思うんです。それはつまるところ多様性を認識するということだし、解釈の可能性を広げるということでもあります。

観光に立脚した大型のアートプロジェクトのあり方も理解できますが、ミニマムな形で小さな企画を行ったりしながら、いわば「自分のアートプロジェクト」を更新していくという感覚ですよね。そういう人たちが街中に生まれてくるほうが、実は豊かな生活になっていくんじゃないかなと思う。助成金が切れたら終わりではなく、小さな企画だからこそしぶとく生き残っていくような気がしています。それを地域に数多く作っていけたら、そこは豊かな地域だと言えるんじゃないですかね。

ただ、地域がそうなっていくには時間がかかります。なかなか数値的な目標は出にくいところではあるかもしれません。でも8年くらいやってると見えてくるものあるんです。2008年にオープンして、もう8年になりますから、小学校1年生から6年生まで6年間アリオスのワークショップで育ってきた、なんて子どもたちが出てきます。すると、子どもたちが自分たちでワークショップを作って、割り箸鉄砲遊びとかいろんな工作や遊びの場を提供してくれるようになるんです。こっちがこうさせようと思ってやらせるのではなく、子どもたちから自然発生的に出てくるようになっています。

ほかには、いわきアリオスで共催していた「フラガールズ甲子園」。ここには、ステージで踊る高校生のほかに、新聞部や放送部、写真部の生徒たちがやってきます。彼らが3年間そこで取材したり執筆したりするのを応援していると、成長の跡も見えてくるし、将来そういう方向に進みたいという子どもが出てきたりもしています。アリオスのオープン当初から続けている舞台技術講座や「たんけんアリオス」もそうですね。受講していた子どもたちが、舞台・音響・照明の専門学校や大学を目指したりしている。こういうのは目立たないし実績には数えられないかもしれませんが、確実に育つものがあるんだな、そういう社会貢献もあるんだなと感じています。

67aa73cc8cba62a72da6ea3e6687aad1いわきフラガールズ甲子園では、市内の高校の新聞部が大活躍した

85a653a07d90ed8f533e47d6a8a73511たんけんアリオスの模様。アリオスで開催されるキッズ向けのワークショップは実に豊富だ

DSCN9677恒例イベントに成長した「アリオスパークフェス」。販売ブースのほか市民プロレスのリングがあるのも見える

—なるほど。企画や交流だけでなく人材育成の場を作っているわけですね。そういうレンジの長い取り組みを中長期的に取り組むことができているからこそ、市民と施設の距離も縮まる。そのあたりに公営の文化施設のあるべき姿が見えるような気がしますね。

文化事業を行政がやるときは、最終的には何らかの目に見える成果、花を咲かせなければいけないのかもしれませんが、いずれにしても中長期的なビジョンを持って推進することが大事です。いわきも同じで、今はとても面白いイベントが多いけれど、今メインを張ってるプレイヤーを脅かすような若い世代がどんどん出てくるような循環を作っていかないといけないとは考えています。

私たちのような施設は、種まきと人材を送り込むポンプとしての役割、両方を果たしていかないといけません。常に地域に対してアート的な刺激を与えて、地域を面白がってくれる人たちを増やすお手伝い。それを中長期的にやっていく。すると、根っこや茎が太くなって、栄養が行き渡っていくんですね。そして、彼らがまたプレイヤーになって、みんながそれぞれ群雄割拠で活躍でき、互いに認め合って刺激し合える地域になっていく。それくらいの気構えでやっていきたいと思います。

人材育成って巨額の予算がかかるようで、実はそんなにかからないものなんじゃないかなあ。その人たちの活躍する機会と場所を用意すること。用意すると、それぞれが問題意識を持って、最善を尽くして成長してくれますから。少しだけアドバイス、コーチングしていくことで一気に成長していく。だからまず場をつくる。そこでみんなが腕を振るえるように、いろいろな環境を整えていくこと。そこかなあと思いますね。

まちづくりって、イケてる人はポジティブ×ポジティブの考え方で進められるし、独自のネットワークを活かして盛り上がっていってくれるけれど、世の中そういう人ばかりじゃない。むしろぼくらは、いわきから一歩も出ないような人たちが、毎日を楽しく暮らしていく知恵やヒントを提案していきたいんです。まあこのあたりはあくまでぼく個人の想いになりますが、そういうところでいわきの文化運動の基礎体温をあげていくと、結果的に町の活気につながっていくんだと思います。

 

profile  長野隆人(ながの・たかひと)
1976年、静岡県島田市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
在学中からクラシック音楽の雑誌の編集に携わり、2003年に月刊「ぶらあぼ」副編集長、
2005年からはバレエとダンスの情報誌「DANZA」創刊編集長を兼務した。
いわきアリオスには開館1年前の2007年に着任。
通常の広報業務のほか、市民との協働プロジェクトや地元高校・高専のマイナー文化部支援事業、
東京藝術大学美術学部との連携などを通して、公立文化施設の可能性を拡げる「施設広報」と呼ばれるジャンルの確立を目指している。
「文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと」(水曜社)第一部を執筆。

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