町と森との付き合いを変えていく

「森のはこ舟アートプロジェクト」の総括特集第三弾。市街地である喜多方市は、森との関わりをどう再構築しようと試みたのか、コーディネーターの五十嵐恵太さんに聞きました。

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特別企画「森のはこ舟アートプロジェクト」2015総括インタビュー③

五十嵐恵太さん(森のはこ舟アートプロジェクト・喜多方エリアコーディネーター) 

町と森との付き合いを変えていく

会津地区を中心に繰り広げられている「森のはこ舟アートプロジェクト」。2015年の事業を振り返りながら、キーパーソンに話を伺っていく特別企画。第3弾は、今年度から喜多方エリアのコーディネーターを務める五十嵐恵太さん。五十嵐さんが関わりを深くした背景には、喜多方ならではの「町と森の関わり」があるようです。

町から森へ向かう独特のスピード感

−−喜多方は町のイメージが強いですが、どのように森との接点を作ったのでしょうか。

喜多方は『蔵の町』とも言われるように、全域が『森』と関わりの深い地域とは言えません。ですから、町が森とどう付き合っていくのか、町から森にどのように導線を作っていくのかをプロジェクトでは重視しました。今年は、市内の中心部から少し離れた楚々木(そそぎ)集落と、高郷町と2カ所でプロジェクトを行いましたが、普段の生活では森と接点の少ない方に声をかけて森に集まってもらったり、リサーチの報告を通じて森のことに興味を持ってもらえるように計画をしていきました。

町で生活をしている方にとっては、普段の生活の中で森に関心を持つことはほとんどないでしょうが、『アート』が森への入り口になってくれて、森へ接続する回路になってくれたように思います。森へ通うことで森の見方が変わり、付き合い方も変わる。それがじわじわと感じられるようになってきました。

−−具体的にはどのようなプロジェクトが行われたのですか?

『楚々木樂舎』では、楚々木地区で使われなくなっていた廃校を利用した『場づくり』を行い、そこを会場にして夏、秋、冬と季節を変えて3回のワークショップを実施しました。廃校が子ども達の声であふれ、集落の方がとても喜んでくださったことが印象的です。調査活動や勉強会などがオープンな企画になっていることも特徴です。

『高郷プロジェクト』では、高郷町が広範囲なこともあってフォーカスの仕方がまた違います。1年目のリサーチを基に、アーティストが地域のボートレースなど市民行事に参加しながら、そこに暮らす人たちへのフォーカスを進めてきました。地域へ入っていくスピードがゆっくりなのが特徴かもしれません。どちらのプロジェクトとも、いきなり来て何かを作るということではないですね。地域の人足や、行事のお手伝いを重ねて、集落の方との距離感を近づけていったりと、すごく丁寧なプロセスを経てプロジェクトが進んでいます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA喜多方で「食堂つきとおひさま」を夫婦で営んでいる五十嵐さん。喜多方に小さからぬ影響を与え続ける1人

OLYMPUS DIGITAL CAMERAプロジェクトマネジメントを通じて人材育成にも力を入れたいと佐々木さん

アートをきっかけに 森の見方や関わり方を変えていく

−−五十嵐さんは、今年からエリアコーディネーターに就かれていますが、プロジェクトとの関わり方を変えた背景には、どのような事情があったのでしょうか?

活動の主体となっている『NPOまちづくり喜多方』では、ここ数年、若者の受け入れに力を入れてきました。地域の様々なプロジェクトを任せて実戦の経験を積んでもらい、社会に出る一歩手前の学びの場となっていたんです。森のはこ舟の喜多方での活動が始まった時も、NPOの若者が主体となり試行錯誤しながらプロジェクトを進めていましたが、経験の少ない若者中心だと、プロジェクトをこなすことだけで精一杯になってしまっていました。

そんな様子を見ながら、もっとこんな風にしたらいいのにな、と思うところもあって、私自身がアートと関わってきた経験を基に、今年からコーディネーターをやらせてもらうことになりました。100%の成果を目指すのではなく、120%を目指す。考えをもって進めていけば、若者達の力も充分に発揮されます。そして、アートプロジェクトではアーティストが帰った後に残されたものを、地域の人たちに引き継いでいくことが大切だと私は考えています。

−−五十嵐さんが考えているのはプロジェクトの持続性ということでしょうか。持続性を生んでいくためには、プロジェクトには何が必要だと考えていますか?

アートの面白さって『モノの見方』だと思うんですね。目の前にあるものに対して、1つの答えにこだわらず別の見方を模索するのはアーティストと呼ばれる人たちの得意とするところです。地元の人にとっては当たり前に見えるものが、見方を変えると実は新しかったり、他にない特別なものだったり、そういうことが実際に活動を通して発見されてきています。

例えば、森のはこ舟と関わることで、森に対する見方が変わったり、森との接し方が変わったり、そうした人が一人でも増えていくこと、それがまさに成果だと思います。そして、アートを通した体験を、特に子ども達に経験して欲しいと思っています。

全国的に学校のなかで美術の時間が減らされている中、こういったアートプロジェクトは地方でアートやアーティストと関わることができるとても貴重な場とも言えます。アートプロジェクトを通して人が育って土壌を作っていくというイメージでしょうか。町である喜多方には、そんなことも求められていると思います。成果を数値化することは難しいけれど、森の見方やアートに対する考え方がじわじわと変化していくようなプロジェクトが仕掛けられたらいいですね。

 

profile 五十嵐恵太(いがらし・けいた)
1977年、山口県生まれ。武蔵野美術大学油絵学科2001年卒業。個展、グループ展を多数開催。
油彩、アクリル画を中心に幅広い作品を制作。2011年に喜多方に移住し、
1年間かけて古民家を改装した「食堂つきとおひさま」を夫婦で営む。
教員として高校で美術を教えたり、デザイナーとしてWEB制作に携わった経験もあり、
その経験を活かして喜多方でアートを楽しむ場を創造していきたいと考えている。喜多方アートスクール「空のある教室」主宰。