森の時間軸で文化を育てる

森のはこ舟アートプロジェクト西会津エリアマネージャーで、ランドスケープデザイナーの矢部佳宏さんの語る「森の時間軸」。文化を育てることの根幹に関わる時間の捉え方。

特別企画「森のはこ舟アートプロジェクト」2015総括インタビュー④

矢部 佳宏さん(ランドスケープデザイナー) 

森の時間軸で文化を育てる

会津地区を中心に繰り広げられている「森のはこ舟アートプロジェクト」。2015年の事業を振り返りながら、キーパーソンに話を伺っていく特別企画です。今回話を伺ったのは、西会津エリアコーディネーターである矢部佳宏さん。西会津国際芸術村を拠点に様々な取り組みを続けています。ご専門であるランドスケープデザインの視点を交え、西会津の魅力やマネジメントについて伺いました。

変化のきっかけをつくるということ

−−これまで2年間コーディネーターを務めるなかで気づかされた西会津の魅力はどんなところですか?

実は、西会津というのは、会津の中で一番標高の低い町でありながら、標高2000mクラスの飯豊連峰がすぐそばにある。つまり高低差に多様性がある土地です。さらに、切り立った谷や盆地の広がりが同居するなど地形の多様性もあります。

さらに思想的な多様性もあるんですよ。西会津は新潟経由で会津地区ではもっとも早く京文化が入ってきたということもあり、かつては研幾堂という学塾から多くの偉人達が輩出されました。確かに『これだ!』という観光資源が少ないという声もありますけど、裏を返せば総合性が高いからこそ、一つ一つの要素にスポットが当たっていないのではないかと思うのです。なので、そこにアートの視点が加わることで、町の魅力や多様な文化的背景に光があたり、面白い取り組みができるはずだと思っています。

−−森のはこ舟をスタートさせて、大きく変わったところはありますか?

2014 年を経て、アーティストとどのように関わればよいか、どう関わることが地域にとってアートの役割が生きてくるのか、町の人たちが少しずつ理解してくれたような気がしますね。心がけてきたのは、アーティストと住民の両方に働きかけるということ。いくらアーティストが『こんなところが面白いよ』ということを提示しても、そもそも住民が何とかしようと思っていなければ、プロジェクトも進みませんし、まちづくりにも繋がりません。

一方、アーティストに対しても、町のことや町の未来に必要なこと、コーディネーターとしての私の考えを伝えなければ、1人よがりなプロジェクトになってしまいます。例えば、2014年から開催している『草木をまとって山のかみさま』では、2015年からは私たちがアーティストからワークショップを引き継ぎ、参加者に八百万の神様になってもらうというアレンジも加えました。

地域住民の意見をしっかりと汲み取りつつ、アートプロジェクトそのものをデザインしていくのも、コーディネーターの大事な仕事だと思っています。2016年は、神社のある町並みをアートで盛り上げようというアイデアが住民の側から生まれてきました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAランドスケープデザイナーでもある矢部さんの時間軸はとても示唆的だ

OLYMPUS DIGITAL CAMERA少しずつアートを用いた地域づくりが生まれているという西会津町。矢部さんはその中心人物だ

川の流れは、石を一つ投げたくらいでは変わらない

−−住民側からアイデアが寄せられるというのはすごいですね。今年は具体的にどんな動きにつながりそうですか?

『草木をまとって山のかみさま』では、地元の区長さんから『今年は大山祇神社の 参道までの町並みを、子供達の絵等を使って装飾してみたい』というアイデアが寄せられたので、 参道の雰囲気を出すために日除け幕に絵を描くワークショップを提案しています。神社とアートの結びつきが1つの新しいまちづくりになってきているんですね。

このほかにも、集落の活性化に関わる方から『アーティストを紹介して欲しい』なんてことを聞かれるようにもなりました。最初は、アーティストやコーディネーターからの提案を、よくわからずただ受け取っていた住民が、今や自分たちでプロジェクトにアートを活用していく段階に入っています。これは本当に大きな成果だと思いますよ。まちづくりというのは、アートにせよ何にせよ、最初は外部の力が必要でも、いずれ地域の方々が主体になっていかなければなりません。

−−そのような変化は、やはり森のはこ舟特有の「時間軸」があると思います。1つのプロジェクトに時間をかけることについて、矢部さんの考えを教えて下さい。

私の専門であるランドスケープデザインは、木を植えて30年後に自分の思い描いてきた風景が出てくるという世界なので、そもそも成果を急ぎません。文化もそうだと思います。川に石を一つ、ドボンと投入したからといってすぐに流れが変わるわけじゃありません。石をいくつもいくつも投げ入れ続けることで、 少しずつ水の流れが変わって、それによって土が浸食されたり、深さが変わったりして、そこでようやく新しい流れが出てくるわけです。

そのように、日常生活のなかでの一つ一つの行為を見直すきっかけとしてアートの視点が入っていかなければならないと考えています。例えば私たちが活動拠点にしている西会津国際芸術村も同じです。子どもの頃にこの場所がなかった人にとっては、その存在が違和感として捉えられてしまうかもしれませんが、子どもの頃から芸術村が当たり前にある世代にとっては、アートの視点で日常を見ることがより近いところに感じられるようになると思います。

だから、私はそのくらいの時間軸で森のはこ舟を捉えるようにしています。木が育つのも、川の流れが変わるのも、子どもたちが育って地域が変わっていくのも、1年や2年ではどうにもなりませんから。そうやって、じっくりと、少しずつ、森のことや自然のことについての価値観が変化したり、付き合いかたが変わって行くことでしか、新しい時代は切り開かれないのではないかと思っています。その意味では、私たちは、そのきっかけを作り続けているのにすぎないのかもしれません。

 

profile 矢部 佳宏(やべ・よしひろ)
1978年、福島県生まれ。西会津国際芸術村コーディネーター( 株式会社西会津町振興公社所属)。
NPO 法人西会津国際芸術村、studio CLYNE (カナダ、ウィニペグ) 共同主宰。
森のはこ舟アートプロジェクト西会津エリアコーディネーターを務めるほか、西会津町歴史文化基本構想策定委員。
株式会社上山良子ランドスケープデザイン研究所、フリーランス(studio CLYNE)、
NITA DESIGN GROUP、Tengtou Landscape International Creative Center を経て、現職。