地域の「もぞもぞ」で飛び火をつくる

喜多方、三島、西会津、3つの地域のネットワークを育みながら全体のマネジメントを担った事務局の遠藤和輝さん。事務局長としての立場からプロジェクトを語って頂きました。

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特別企画「森のはこ舟アートプロジェクト」2015総括インタビュー⑤

遠藤和輝さん(森のはこ舟アートプロジェクト 実行委員会事務局長) 

地域の「もぞもぞ」で飛び火をつくる

会津地区を中心に繰り広げられている「森のはこ舟アートプロジェクト」。2015年の事業を振り返りながら、キーパーソンに話を伺っていく特別企画です。喜多方、三島、西会津、この3つの地域のネットワークを育みながら、全体のプロジェクトマネジメントを担ったのが、事務局の遠藤和輝さん。事務局長としての立場からプロジェクトを語って頂きました。

事務局の役割とは、森を見渡すこと

−−各地のワーキンググループのサポート役ということで、『縁の下の力持ち』の役割に徹した1年だったかと思います。今年1年取り組んできたことからお話頂けますか?

私たち事務局の役割は、プロジェクト全体の把握や広報、それから報告書のとりまとめなど。あくまでサポート側に回っています。昨年度までは、喜多方WGが兼務で事務局を担っていましたが、今年は地元にできたNPO法人にその役割を委託しています。それが、私の所属する、特定非営利活動法人ふくしまアートネットワーク、通称FAN(ファン)です。

この法人は、昨年5月に、アートプロジェクトを活用した地域振興、地域活性化を行う団体のネットワーク構築や支援を目的として作られた団体です。実際にアート事業を実施するWGを根元から支える、そんな担いをした1年だと感じています。

それに加え、事務局単体で実施した事業もありました。例えば、2014年度の事業報告も兼ねたキックオフフォーラム。ディレクター伊藤達矢さんにお話し頂いてコンセプトを共有しつつ、各エリアのコーディネーターからこれまで実施してきたプログラムの報告と各エリアの今年の抱負を共有いただきました。

さらに、今年は東日本大震災で甚大な被害を受け、今なお避難区域の残る南相馬市でフォーラムと現地見学会を実施しました。南相馬市は2019年には植樹祭も予定され、復興・再興に向けて必死に頑張っている地域です。震災・津波・原発と様々な環境変化があり、現在の状況をしっかりと受け止め、そしてこれからの自然環境を考える、そんな機会となりました。特に現地見学会は環境の変化を間近で見られる非常によい機会であったと思います。

−−南相馬ですか。一見すると会津とは距離的にも離れているし「森」というイメージがありませんが、実際にはどのような感じでしたか?

南相馬の西部に豊かな阿武隈の山並みがあり、その麓には里山、そして里山から海に注ぐ川、海があります。海といっても、砂浜や磯場があったり干潟があったりして、とても多様なんですね。今回は、震災後に群生しはじめた絶滅危惧種のミズアオイなどを見て回りました。実はこの群生地は、津波の後に生まれたところでした。津波は町を破壊しましたが、自然環境にとっては、もともとあった状態に戻ったというほうが正しいかもしれません。自然と人の関わりがよく見える場所でもあるんです。

ツアーバスには、南相馬市博物館学芸員の稲葉修さんに添乗いただきました。自然環境だけでなく、そこに文化や歴史的な背景を織り交ぜた話をしていただいたことで、より“ 森” について深く知ることにつながりました。稲葉さんは、震災前から南相馬に住んでいる方でもありましたので、生々しい現地の声も伝えることができたと思います。森のはこ舟アートプロジェクトは、スタート時点では確かに会津から始まっていますが、福島県全体を見ると、会津の里山と南相馬の海が豊かな“ 森” によってつながっていく姿をイメージできると思いますし、震災と原発事故を経験した福島県の森のあり方というものが見えて来るのではないかと思います。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA会津若松を中心とした文化プロジェクトに新風を吹き込んでいる遠藤さん

文化とアートの力で、新しい寄り合いをつくる

−−森のはこ舟アートプロジェクトが始まり、これまで2年に渡り各地でプロジェクトが行われてきたことで、色々な副次的効果も生まれてきていると思います。遠藤さんが強く感じることはありますか?

森のはこ舟アートプロジェクトの各エリアの動きを見ていて、人が集まる場所・機会が地域に増えたなと感じます。 1つのアートプログラムの実施にあたって、地域の住民や周辺市町村の方など多くの人を巻き込んで、何度も何度も集まって、テーマとなる地域資源を深く掘り下げる作業をする。その中で新しいコミュニティができて、地域間のネットワークであったり、個対個のネットワークであったりを構築する一助ともなっているなとすごく感じます。

一見わかりにくい、こういう『もぞもぞ』は、地域にとって必要な活動であると思っています。例えば、2014年に三島で行われた『森の祈り×サイノカミ』の事業は、その後三島町とアーティストが直に地域に繋がって、予算もついて事業が引き継がれました。森のはこ舟がきっかけになって町が巻き込まれた形です。こうして後に残るもの、三島の三澤さんの言葉を借りれば “飛び火” を作れているのは、大きな成果だと思っています。

−−確かに “飛び火” という言葉は印象的で、森のはこ舟の効果を表す言葉だと思います。遠藤さん自身、この “飛び火” を作っていくには何が大事だと思いますか?

重要なのは、やはり元々その地にある歴史と文化をしっかりと知ることと、それをどうにか面白くしようとする“もぞもぞ”ですかね。それがあれば世代を超えて、地域を越えてたくさんのネットワークができると思います。都市部では忘れ去られつつある文化や知恵、歴史が森には息づいていて、若者がそれを学びに森に行き、そこでコミュニケーションが生まれて、いつの間にかアートプロジェクトが立上がってくるんです。

アートを介することで、地域や世代の区切りとかそういう人間が勝手に作り出した壁を取り払ってくれて、人と人との対話と合意のなかでプロジェクトが進んでいるというのを、森のはこ舟の活動の中では何度も見てきました。実際に三島と西会津の合同プロジェクトでは、両地域の町長が揃って参加し、普段は直接話せないような方ともコミュニケーションが取れる機会となりました。

つまり、アートを介することで、既存のコミュニティとは異なる繋がりが生まれるんです。森のはこ舟を通じて、こういう新しい寄り合いが生まれていくんじゃないかと期待していますし、この動きを会津だけでなく県内に派生させていきたいと考えています。

 

profile 遠藤和輝(えんどう・かずき)
1986年、福島県生まれ。NPO法人ふくしまアートネットワーク事務局長。
公立大学法人会津大学大学院博士前期課程コンピュータ理工学研究科にて修士号を取得。
2013 年、TAKLAM (タクラム) というイベント制作・企画・運営会社を設立。
会津若松を中心に音楽やアート、ものづくりに関わり、新しいものを生み出す「つくる人」を応援する事業を展開している。