学校教育の場に求められるアート

学校連携プロジェクトの仕掛人であり、学校とアーティストの間でコーディネートをしている県立美術館の國島敏さんに、プロジェクトの狙い、出てきた効果などについて伺いました。

國島 敏さん(福島県立美術館主任学芸員)

学校教育の場に求められるアート

福島藝術計画×Art Support Tohoku-Tokyoの今年度の事業である「学校連携プロジェクト」。福島に縁のある3人のアーティストが、小中学校や高校の学習の現場に飛び込み、アートやクリエイティブの魅力を伝えています。そこで今回は、この学校連携プロジェクトの仕掛人であり、学校とアーティストを繋ぎながら、その連携を深める潤滑油の役割を果たしている、福島県立美術館の國島敏さんに、プロジェクトの狙い、出てきた効果などについて話を伺いました。

—学校連携プロジェクトの狙いは、そもそもどんなところにあるのでしょうか?

この事業は、実は平成15年度から行われていて、今年で13年目になります。この事業が実施される前にな、14、5年前ということになりますが、文科省の学習指導要領に地域の美術館を活用するなどの文言が盛り込まれ、「じゃあ、学校と美術館は何が連携出来るのか?」ということになり、美術館学芸員と小学校から高校の先生で検討会を開き話し合った結果、この事業が浮かびあがってきた感じです。

ですので、もともとはここがきっかけなのですが、学校側は「総合的な学習の時間」というカリキュラムをどう消化していくかで悩んでいた側面もあったし、美術館は地域との連携や新たな来館者の開拓などを模索していたことなどもあり、ある意味互いの利害が一致したのかもしれませんね。いずれにせよ、子どもたちがアートを通して、創造力や豊かな感性を育み、互いの個性を尊重しあえる大人になって欲しいというのは学校、美術館の共通の願いであり、そこに美術文化を愛好し、美術館を日常的に利用してくれる機会があればなお嬉しいというところが根本的な狙いというか願いでしょうか。

—プログラムを受け入れる学校側からはどんな要望がありますか

おかげさまで参加して下さった学校さんからは、大変ご好評を頂いております。応募したいと思っている学校さんからは「学校の行事予定を組まなくてはならないので、早めに告知して頂ければ」ということはあります。また、要望ということではないのですが、心配されていることとしては「予算」のことです。参加したいけど、予算はどれくらいかかりますか、というご質問はよくあります。みなさん、このために特別に予算をとってはいないので、そこは不安なんだと思います。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAインタビューに応えて頂いた福島県立美術館の國島さん。学校連携プロジェクトの仕掛人でもある

deee3いわき市の岩崎中学校での取り組みの模様。アーティストが学校教育の現場に入り、大型作品を作っていく

—小中学校には音楽や美術の授業があるのに、なぜ総合学習の時間にアートプログラムが求められるのでしょうか。子どもたちが芸術に触れる時間が短くなっているとか、何か問題があるのでしょうか。

はい。それはあると思います。実際、音楽や美術の授業は削減され、学校現場の芸術科目はかなり厳しい状況だと思います。しかし、総合学習でアートプログラムが求められるのは、その授業の不足分を補うという意味ではなくて、総合学習の性格上のことだと思います。「総合的な学習の時間」は「子どもの自ら学び自ら考える力などの全人的な生きる力の育成をめざし、教科などの枠を越えた横断的・総合的な学習を行うものと唱っています。

こういった教育目標が、知識や技術、または目や耳などの感覚器を使うだけではなく、いわゆる身体全体の感覚、つまり体性感覚を総動員できる活動としてのアート、アートプログラムに適合したんだと思います。

—実際にやってみて、子どもたちの反応は? 印象的だったものを教えて下さい。

毎年やってみて、それぞれどの学校さんの開催も面白かったし、創作の現場に立ち会えるのはとても刺激的でした。今年度ももちろん、3名の作家さんそれぞれに工夫を凝らし、それぞれの学校さんで展開が違うので、どこでも楽しかったし印象的だったのですが、そのなかでもし2つ挙げるとするならば、今年初の試みとして複数回展開した、アサノさんの「県立いわき総合高校」と佐藤香さんの「会津若松市立第一中学校」でしょうか。

1回限りのワークショップも短期間の良さというものがありますが、じっくり時間をかけて取り組むものも必要ではないかと考え、実験的ですが今年度実施してみました。どちらの学校さんも4回通ったのですが、この中で特に印象的だったのは、作家と生徒・先生の距離(心理的な)が縮まっていくことでした。これはもちろん予想していたことですが、距離が縮まるということが、創作活動にはとてもメリットがあると感じました。互いの人となりを感じ響き合うというんでしょうか。

もちろん、そんなに長期間ではないので、そこまで深くは知り得ないと思いますが、ほどよい距離感がほどよい緊張感を生み、作品はもちろんいいものになりましたが、ワークショップで重視されるべき「プロセス」がこの開催においては、とても濃く、深いものなっていったように感じました。また、時間があるということは、作家さんにも生徒さん、先生にもゆとりが出来るんでしょうね。展開をフィードバックしながら進められるので、気持ち的にも良かったんだと思います。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA体性感覚を総動員できる活動としてのアート、アートプログラムは、「総合学習」の狙いとも合致すると國島さん

deee2いわき総合高校での取り組み。小学校、中学校、高校と、年代は違っていても「想像力」をいかに学校教育の場で磨いていくのかが問われている

deee1外部からアーティストが来ることは子どもたちにとっても新鮮で驚きのあるもの。参加するときの目が違うという

—美術館というと、常に動かずにそこにあるもの、というイメージですが、最近ではどんどん地域にはみ出しているようにも思えます。美術館は、なぜこのように地域にどんどん出るようになっているのでしょうか? どのような問題意識があるのでしょうか。

たしかにそうですね。福島県立美術館は昨年30周年を迎えましたが、オープン当時1984年頃にはこうした展開は想定していなかったように聴いています。ではなぜこの30年でこうした動きになってきたかという経緯ですが、実は私も勉強不足でそんなに詳しい流れはわかりませんが、ただ、もう日本でも80年代後半からは、美術館のアウトリーチ活動は展開し始めています。

ザックリ言ってしまえば、時代の変化、文化の変遷の中で、美術館、もしくは美術が、そうした要請を受けてきたのは間違いないと思います。アートというツールを通して人が互いのコミュニケーションを図る、さらにはコミュニティを創出する。中にはコミュニティを創ることがアートになっていることもありますよね。違う言い方をすれば、コミュニケーションのツールとしてアートが有効であることを多くの人が理解し始めたのでしょうね。

今の「まちなか芸術祭」などもこうした動きの1つだと思います。こうした時代の動きの中で、当然美術文化の拠点とも言える地域の美術館が連動していくのは自然なことだと思います。

—今年1年やってみて見えてきた課題などがあれば教えて下さい。

そうですね。まず、しっかり応募をすれば、かなり需要があることはわかりましたが、それに対応するだけのスタッフの少なさは課題ですね。もちろん作家さん自身の動ける範囲というのもあるので、いずれにせよ限界はあるのですが、そのまえにスタッフが足りず動きが制限されてしまうという現実があります。資金面などもあるので、厳しいとは思いますが、ボランティアなどを育てるとか、なにか方法はありそうな気もします。

あとは、今言った資金面でしょうか。生々しい話ですが、やはりここは慎重にならざるを得ません。おかげさまで、以前よりはずっと動けますが、費用をかけた分だけの効果が見えにくい事業なので、どこで切れるかいつも不安がつきまといます。(笑)

最後は、これが一般の学校内だけで留まっていいのかということです。つまり、この学校との関わりから始まった事業ではあるんだけれども、子ども1人ひとりとの関わりで考えれば、学校に通えない子ども達の方が、もっとアートを享受する機会を必要としているのではないか、ということです。

もっと視野を拡げれば、この事業自体が学校という枠の中に留まっていていいのだろうかということもありますね。つまり、もっと地域へのアプローチ、もし学校と同じようなコミュニティへのアプローチであるとするならば、フリースクール、院内学級、老人ホーム(グループホーム)などなど、社会と接点があるようなところへのアプローチもあっていいんじゃないかなと思っています。

 

profile 國島 敏(くにしま・さとし)
福島県立美術館主任学芸員

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