第1回「マナビバ。」文化政策を考える

ニッセイ基礎研究所に所属し、全国各地の文化政策についてリサーチを続けている大澤寅雄さんをゲストに迎えた第1回目の「マバビバ。」。会の模様を振り返ります。

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震災復興における文化政策の意義や役割を考えるための機会を創出しようという文化セミナー「マナビバ。」が、11月9日、いわき市のいわきアリオスで開かれました。福島藝術計画× ASTTの公式プログラムでもあるマナビバ。被災地であるいわき市が目指す「文化のまちづくり」とはどうあるべきか、そのために必要なことは何なのか。当日交わされた言葉を振り返りながら、セミナーの模様を紹介していきます。

第1回のゲストは、ニッセイ基礎研究所に所属し、全国各地の文化政策についてリサーチを続けている大澤寅雄さん。現在は、クリエイティブな地域活性でも全国的に有名な福岡県の牛島に在住。自ら文化創出に関わりながら、全国各地の文化事業と政策の関わりについてリサーチ・研究を続けていらっしゃいます。いわば「現場感覚」と「俯瞰からの批評」の両方の視点を併せ持った方でもあり、参加者にとっては全国の潮流を伺い知る貴重な会となりました。

今回の「マナビバ。」のテーマは、「文化の対象は、どこまで広がっているのか?」というもの。近年、文化政策の対象は、芸術や文化の振興だけでなく、まちづくりや福祉など多様な分野へと広がってきています。最近の動向を学び、文化政策の分野を「横断する力」を活かすために、どのような役割が必要なのかを考えました。

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冒頭で触れられたのが、まさにその「文化政策の対象の広がり」でした。文化事業を企画して運営することだけではなく、子育てや教育の分野、地域づくりの分野、観光や物産の振興、あるいはコミュニティの形成や震災復興など、日常生活に直結する各分野において「文化政策」を取り入れた横断的な取り組みが全国各地で主流になってきています。文化庁も、それを後押しするような動きを見せているそうです。

しかしながら、政策立案の現場では、それぞれの担当部署の「縦割り」によって、柔軟な予算配分がしにくい現状も。だからこそ文化政策が「縦割り」のなかに横断的に刺さっていくものとして期待されているのでしょう。大澤さんは、組織や団体、地域のステークホルダーの間に入っていき、さまざまにコミュニケーションしていく「コーディネーター」の役割が重要だと力説されていました。

それに加え、大澤さんは、文化政策をひとつの「生態系」として見ることの重要性を解説。生産者、消費者、そして分解者の3者が良好な関係を築いていくために、水や土、空気、酵素を生み出していくことが文化政策の役割だと話していました。エネルギーを生み出していくには、それぞれに「養分」が必要。そこでコーディネーターが「養分を運ぶ存在」となり、地域を駆け回っていくのでしょう。

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全国の取り組みを見ても、コーディネーターがうまく機能している取り組みは、地域に少なからぬ好影響を与えているようです。大澤さんは「文化政策を充実させていくためにもコーディネーターとなる人材の育成が欠かせない」と、人材育成の重要性に触れつつ、「地域NPOや各種団体と緊密に連携を図りながら、地域の共同体の誰もが自由に参加できる入会地(いりあいち)のような文化的営みの総体としての『文化的コモンズ』を作っていくことが重要だ」と話しました。

いわき市の文化事業にも継続的に関わっている大澤さん。「いわきの面白さは全国でも5本の指に入ると思います。いわきは、それぞれの担い手が半ば『勝手に』やってしまっているというのが面白い。他の地域ではそうはいきません。いわきのコーディネーターが、それら自発的な行為を制限するのではなく、ゆるやかに連携させていくような役割を果たしていくことで、もっと文化的に豊かな場所になっていくのではないか」と、いわきの文化政策についても言及して頂きました。

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文化芸術とは、単に芸術作品を創作したり鑑賞したりすることにとどまらず、様々な分野を横断していくものであり、その横断こそが文化芸術の役割である。とすれば、やはり、そこを横断していく人、コーディネーターの育成が地域の財産になり得ます。「マナビバ。」もまた、そのコーディネーターを育成するために開催されているものでもあり、参加者の1人ひとりが「コーディネーターの卵」として育っていくことを期待するものでもあります。

今回の「マナビバ。」には、いわき市内での文化的活動の担い手や、いわき市で文化政策に関わる皆さんが参加されていました。セミナーが「縦割り」だった政策や地域がゆるやかに連携し、豊かな生態系を作っていくためのきっかけになったのではないかと思います。次回の「マナビバ。」では、文化政策研究者の長嶋由紀子さんと、静岡を中心に様々な取り組みを企画している鈴木一郎太さんをゲストに、さらに一歩踏み込んだ文化政策について話していきます。ぜひお集まり下さい。

 

□第2回「マナビバ。」 ディスカッション「地域の多様性を大切にするためには?」
ひとつの地域には、さまざまな文化的な背景をもった人々が共に住んでいます。その多様な「違い」を包み込むような文化政策は、どうすれば実現できるのでしょうか。国内外の理念や事例を学ぶことから、これからのいわき市に必要な文化政策のありようを議論します。

日程:2016年11月30日(水)18:30~20:30
会場:いわき芸術文化交流館アリオス カンティーネ
定員:30名※当日のお申し込みも受け付けます。
参加費:無料
ゲスト:長嶋由紀子氏(文化政策研究者)×鈴木一郎太((株)大と小とレフ取締役)