多様な意見を受け止められる場を

人々の考えや状況の違いを対話によって共有する「未来会議」の事務局長・菅波香織さんへのインタビュー。状況の違いや多様性を受け止める「場づくり」について考えます。

菅波 香織さん(弁護士/未来会議 事務局長)

多様な意見を受け止められる場を

震災と原発事故が生み出したコミュニティの分断。この大きな社会課題を解決するための糸口を探ろうと、「未来会議」という対話ワークショップが続けられています。発起人の1人が、弁護士の菅波香織さん。本業の傍ら、事務局長として様々な企画の運営に携わっています。原発事故で浮かび上がった考えの違いを受け止める「場」を、いかにして作っていくのか。当事者の菅波さんの言葉を借りながら、震災後のいわきにおける場づくりについて考えます。

―いわき市を舞台に2013年から続けられている「未来会議」。震災と原発事故について、現在の生活について、あるいは未来のまちづくりについて、多様な人たちが言葉を交わす対話の場です。特徴的なのが「相手の意見を否定しない」、「1 つの結論に導かない」といったルール設定。お互いの意見を戦わせながら結論を導き出す討議・討論の場ではなく、誰かの話に耳を傾け、自分の気持ちを吐露できる場として機能するよう、慎重なナビゲーションのもとで運営されています。これまで15回を超えて開催されてきた本会議以外にも、双葉郡の有志による「双葉未来会議」や、地域で活動しているゲストを呼んでお酒を飲みながら話を聞く「MIRAI BAR」など、スピンオフ企画も数多く誕生しています。

また、未来会議の参加者のなかから自ら活動する人が生まれたり、そこから新たな事業が生まれたりと、地域に様々な波及効果が生まれています。未来会議の種は、浜通りのあちらこちらに芽を出し始めているようです。菅波さんは、その未来会議の事務局長。本業は弁護士であり、5人の子を持つ母親でもあります。弁護士として、そして母として奔走する傍ら、未来会議の事務局長として、様々な企画や運営に関わり、メンバーとともに未来会議を育ててきました。菅波さんは、なぜこのような多忙の合間を縫ってまで対話の場づくりを続けているのでしょうか。

菅波 わたしのモチベーションは、地域の分断という辛い状況が続くなかで、対話の場を体験することが、分断をちょっとだけ乗り越えるヒントになるんじゃないか、だからそういう場を作りたい、ということです。ただ、対話の場といっても意見を闘わせる場ではなくて、話を聞くということが基本になっていて。

今も未来会議に関わって頂いているファシリテーターの田坂逸朗さんの考えが強く影響しているのですが、その田坂さんが重んじているのが「ワールド・カフェ」という手法です。ワールド・カフェの目的は相互理解を深めることで、問題を解決するとか、結論を出すとか、何らかの合意形成を図るものではなくて、ただシンプルに、誰かの話を聞き、自分の本当の気持ちを話すことです。そのために、「相手の話を批判しない」とか「1つの結論に導かない」とか、そういうルールを持ち込んでいます。

私が最初に参加した対話集会も、そのルールのおかげですごく盛り上がりました。みんな自由に話しているのに、ケンカは起きずに、「ああ、そういうことがあったんだ、知らなかったよ」みたいな気づきがあって。あの当時、自分たちがいかに大変だったかを立場を越えて話す場なんてなかったし、そういう対話の場を意識して作らないと、こういう話ってできないもんだなって強く感じました。

未来会議での菅波さん。自らもファシリテーションを学び、大小さまざまな企画を立ち上げている。
未来会議での菅波さん。自らもファシリテーションを学び、大小さまざまな企画を立ち上げている。

これまでに未来会議に参加してくれた方からは、「自分と違う意見を聞くと今までは我慢できずに反論しちゃってたけど、自分と違う意見に耐えられるようになった」というような反応がけっこうあります。私自身も、対話の場に行くと自分の中の気持ちや頭のなかを整理できたり、前向きな気づきが得られることが多いですね。対話を通じて、自分を客観視できるようになるからかもしれません。

ただ、それだけ自由に話す場なので、余計に強い分断が生まれてしまうこともあります。特に、原発事故直後の食の安全に関する問題は、誰かを守ろうとするほど誰かを傷けてしまう、というようなことがあって。分断を超えるための話をしにきたのに、現実では傷つきを伴ってしまう、みたいな。私自身も、会を運営するなかで、悩んだり傷ついたりすることも多くありました。でも、今では傷つくことを恐れなくなったというか、そもそも傷つくものなんだというふうに思えるようになりました。傷つくことに慣れていった先に何か見えないかなって。

そこで大事なのは友だちになっちゃうってことだと思うんです。自分の考えとは全然違うようなことを言われてしまったとしても、友だちだったらまだ傷は浅くて済むっていうか。また繋がりを求めたくなって、傷も回復していくと思うんです。だから、未来会議って、結局はいろいろな人たちと友だちになってしまう場なんじゃないかって思うし、私自身も、単純にいろんな人たちと友だちになりたいから未来会議を運営してるのかもしれません。

―違うことは、ネガティブなことじゃない

―原発事故以降、双葉郡からの移住者や避難者を受け入れるいわき市では、復興や賠償のあり方、あるいは食の安全など、様々な領域で「意見の食い違い」が表面化してきました。そしてその多くは、賛成/反対、安全/危険、といった二元化した議論になり、社会の分断をより大きなものにしています。考え方の違い、意見の違い、状況の違い。原発事故がもたらした社会の分断とは、まさに「違い」そのものであったようにも見えます。しかし、菅波さんは「違い」は決してネガティブなものではないと言います。

菅波 未来会議では、皆さん割とハッキリと色々なことをおっしゃるので、その分「自分とは違うな」って思うことが増えたように思います。ただ、「違うんだな」って気づくことは決してネガティブじゃないと思うんです。だって、もともとみんなそれぞれ違う人間なんだし。だから、これって私にはない考えだなとか、この人のここはすごくいいなとか、違いをポジティブに捉えることができたらいいなっていつも思っていますし、そのための「否定しない」というルールなんだと思います。

私だって、事務局長やってるのに、どうしても感情が先走ってしまうところがあって。だから、未来会議のような対話の場を作ることで、ダメになりそうな自分に手かせ足かせをしているのかもしれません。感情に左右されちゃうようなダメな人間だから、そういうルールのある場に敢えて身を置くことで、自分をセーブしながら誰かの話を聞いて、そして自分を客観視するっていうか。未来会議は私にとってはそういう場でもあるんですよね。

もともと日本では「同じであるべき」ということが目指されてしまいがちで、みんな違うんだということを知るという場が少ないように感じています。今日、偶然読んだ本のなかで、こんなことが紹介されていました。保育園や幼稚園での集団生活というのは、皆と同じことができるようになる場ではなくて、みんなそれぞれ違うんだということを知る場なんだって。親のいない子もいれば、兄弟がいる子、いない子もいる。あれができる子もいれば、できない子もいる。そういう違いを知るのが保育園だと。

それと同じで、みんな違うんだっていうことを実感できるような場が、私たちにも必要なんだと思います。特に原発事故後は。でも、普段の生活環境だと、違いはネガティブなものとして受け取られやすいから、「否定しない」っていうルールが必要で。そのおかげで感情的なものが抑えられて、相手の意見を批判せずに受け止められるようになる、というか。未来会議のルールのおかげで、違いがポジティブに感じられるのかもしれません。

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違いを受け止めること。その第一歩は「話を聞くこと」だと菅波さんはいいます。

―多様な人たちの声に耳を傾ける

―コミュニティの分断を引き起こしている大きな要因の1つが、賠償に対する考え方。詳しい事情が知らされていないだけに、予断を生みだし、それが偏見や差別感情を引き起こしてしまっているのです。そうした状況に対峙していくため、菅波さんが意識していることが2つあるといいます。客観的な事実を共有すること、そして話を聞くこと。どちらも本業の弁護士としての経験から得られた教訓でした。

菅波 原発事故後、特に賠償のあり方に対する考えの違いが大きな分断をもたらしているように感じています。避難者にはあんなに賠償金が出るのに、いわき市民には何もないじゃないか、みたいな。ただ一方で、復興需要などで収入が増えたこともあって、いわき市では破産件数や犯罪が減ってきているという事実もあります。検察官もそれに合わせて減ってて、外から人が移住してきたから治安が悪くなったという言葉もあるけど、逆の捉え方もできるのかもしれません。

客観的な情報が伝わっていないなかで、恨みの感情が生まれてしまって、噂とかイメージだけで避難してきている人たちへ憎悪が向いてしまうということがあるのかもしれません。だから、どこかで自分が住んでいる地域のことを客観的に見れる場所、知れる場所がないといけなくて。そこではファクト、事実を伝えることが大事です。淡々と事実を共有することで、感情を超えていけることがよくあります。

でも、ファクトを共有することだけではやっぱり足りなくて、それぞれの考えを聞くってことも大事なんです。本業の弁護士の仕事も、仕事のほとんどは話を聞くことですから。私が担当するのは8割方離婚事件なんですけど、離婚って、理屈云々じゃないところの話で。だから、いかに感情を聞いて、どこに落としどころをつくるかを一緒に探ることが必要なんです。こうすべきだなって結論が自分のなかで生まれたとしても、ずーっと話をしていく。で、あとはもう、本人の気づきというか、判断がどこかで煮詰まるのかを待つしかないんです。結局、弁護士って働きかけをすることしかできないので。

客観的な事実をベースに、誰かの話に耳を傾ける。すると、その人のことを知れるだけじゃなくて、最後は自分の状況が客観的に受け止められるようになる、というか。未来会議に行くと自分の頭が整理できたり、ああ私がやりたかったことってこれだったって感覚になったり、そういう前向きな受け止め方ができるのも、話を聞くことを通じて、自分のことが整理できるからかもしれません。

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多様な立場の人たちがじっくり対話する「未来会議」。毎回たくさんの人たちが集まる。

―2月に開催された、一番新しい未来会議のタイトルは「浜通り合衆国」というもの。双葉の人たちとともに、自治体の壁をぶっ壊して、浜通りという地域の未来や、現状の問題を共有したいという思いから、そのようなタイトルになったと言います。立場も状況も違う多様な自治体に暮らす人々との共生。菅波さんの目は、いわきだけでなく、双葉郡との共生に向いているようです。

菅波 たしかに私のなかの大きな軸は「双葉郡との共生」になってきています。未来会議で、双葉郡の人たちとたくさん友だちになったからかもしれない。ただ、どうしても双葉郡とその周辺地域の問題って、放射能に対する認識の違いや、安心安全の議論から先に進めないという状況もあったりします。極と極で議論が二分化してしまって、話の落としどころがなくなってしまうという経験も何度もありました。だから、一緒に未来を考えるっていうことだと思うんです。

結局、この地域をどんな地域にしていきたいのか、いわきと双葉はどんな関係を築いていけるのか、その未来を考えるっていうか。イエスかノーかだと、答えはどっちかしかないんだけど、どんな風に? どうしたいい? って問いかけをすると、みんなそれぞれ答えは違いますよね。その違った答えを尊重できるようになったらいいなって思います。

個人的には、やっぱりお酒飲むのが好きだから、本会議もいいけど「MIRAI BAR」が好き。いろいろな人たちの話を聞きながらお酒を飲もうってイベントなんですけど、小さいイベントのほうがじっくりと向き合えるし、多様な考えが認められやすいような気がします。丁寧に話を聞ける環境だからかもしれません。否定しないで話を聞いて対話する、そういう小さな場所があちこちに生まれたら、もっとゆるやかに違いを受け止められる社会になっていくんじゃないですかね。

そして、それを繰り返していくことですよね。やっぱり私たちって忘れっぽいじゃないですか。情報はどんどん更新されて、復興も進んでいくんだけど、とても辛い思いをして、未だに避難が続いている人たちが8万人いるということを、やっぱり忘れてはいけないと思います。だから常に、知る、話す、聞く、そしてそれを繰り返す、っていう場を作っていきたいと思っています。

 

profile 菅波 香織( すがなみ・かおり)
福島県いわき市生まれ。1994 年磐城女子高校卒業。1998年東京大学工学部化学システム工学科卒業。
化学メーカーで研究員として勤務後、司法試験受験を目指し、2007年弁護士登録。
弁護士法人いわき法律事務所所属。5児の母。未来会議事務局長。
いわき市まちづくり市民会議委員、いわき市子ども子育て会議委員、いわき市男女共同参画審議会委員、
いわき市中心市街地活性化協議会(平地区)委員。