子どもたちが「決めつけ」を外してくれた

公式プログラム「学校連携プロジェクト」に参加したコラージュ作家の佐藤洋美さんにプロジェクトの意義や手応えを伺いました。アーティストと学びあう効能とは。

INTERVIEW

佐藤 洋美 | デザイナー/コラージュ作家

子どもたちが「決めつけ」を外してくれた

学校教育の場にアーティストが入り、子どもたちと一緒に作品づくりを行うと、その場にはどんなことが起きるのか。福島藝術計画では、この数年、教育の現場にアーティストを派遣してプログラムを行う「学校連携プロジェクト」を行ってきました。今年は、福島市伊達市出身のグラフィックデザイナーでコラージュ作家の佐藤洋美さんを講師に、複数回のワークショップを行ってきました。その佐藤さんに伺うと、このプロジェクトで学びを得るのは、どうも子どもたちだけではないようです。

取材/構成:小松理虔(ヘキレキ舎)

 

—佐藤さんはこれまでも紙を使ったコラージュワークショップなどを手がけていらっしゃいますが、今回、学校連携事業として展開することになった経緯なども含めて、プロジェクトについて簡単に教えて頂けますか?

佐藤:基本的なコンセプトは、まちをコラージュによって再現するというものでしょうか。ワークショップを行ったのは、県内の中学校と幼稚園で、自分たちの暮らすまちにあるお店の包装紙などを破いたり、折ったり、貼ったりして、大きな紙の上に自分たちのまちを再現するという企画です。今回は幼稚園が多かったのですが、幼稚園には散歩の時間もあるので、意外と子どもたちはまちのことを知ってるんですよね。ポストの場所や、畑で採れる野菜、「かつや」のロゴマークとか(笑)まちのなかの愛着があるもの、好きな場所、そういうものを覚えてもらって、それを大きな紙の上で再現してもらいました。

紙を折ったり、破いたり丸めたりというのは、扱いやすいので子どもたちにもたくさん触れてもらいたいなと。通常は、私が持っている紙を色別に分けて、そのなかから紙を選んで制作してもらうのですが、今回は、地図の中に子供たちが常日頃触れ合っている紙を使うことで、より地域の地域性を出したいと思っていたので、親御さんたちも含めて、紙を集めるところからお願いしました。それぞれの町ならではのお店、その包装紙だったり袋だったり、そういう紙を集めてもらって参加してもらったんです。以前、福島県立美術館でワークショップをやったときに、コラージュでブックカバーを作ろうというのをやっていたのですが、それもあって、紙を使ったワークショップを学校教育の場でやってみようというお話に繋がったのかもしれません。

普段は「キャッサバ」の名義でグラフィックデザイナーをしている佐藤さん。

 

—今回は、中学校や高校よりも、幼稚園の参加が多かったと聞きました。子どもたちの雰囲気はいかがでしたか?

佐藤:はい、とても雰囲気がよくて、みんなテンション高めに取り組んでもらいました。今回は幼稚園が多くて、3歳〜5歳の子どもたちなので、年長さんが年少さんの面倒を見ながら、家につかう三角形を切ったり、四角に形を整えたりとか、みんなで楽しく作業してもらいました。最終的には、5メートル×5メートルくらいの大きさになったところもありました。

自分でコラージュしている時は、たとえば紙のなかの小さい人を切り抜いて貼ることで、なんだか面白い動きになっていたりとか、そういう細かなことを面白がるんですが、今回は、1回で120名くらい参加したところもあったので、家ではなかなか難しいくらいの紙の大きさで、のびのび、スカっとするよう、大胆にコラージュを楽しんでもらえたような気がします。

—ワークショップ自体は数時間くらいで終わるそうですが、今回の場合は、自分の暮らすまちを表現するので、制作の前のリサーチも必要ですね。準備の段階から制作が始まっているということでしょうか。

佐藤:そうですね。作品を作ることを通じて、子どもたちはもう一度町を見るんです。普通に散歩していたら流して見ちゃうようなものも、自分が作るとなると、屋根の色とか、建物の形とかを深く見るようになっていきますよね。幼稚園のなかには、園内のマップを再現しようというところがありました。遊具をどうやって紙でつくるか悩んでいた子供たちと、遊具の近くまで見に行って、「ここはこの紙で、細長いのを2つくっつければいいんだ!」などチェックしに走ったり。そういう作業で日々の暮らしを再確認していくという感じかもしれません。

 

幼稚園でのワークショップの模様。子どもたちは自由に紙を貼り付けていく。

 

既存の紙で、田んぼや畑をつくっていく園児たち。

 

子どもたちから教えられたことも多いと語る佐藤さん。

 

—ワークショップで気をつけたところはどんな点ですか?

佐藤:自分のなかで注意したのは、否定をしないということです。コラージュ自体、「ここに貼ってはいけない」なんてことはひとつもなく、貼り重ね、せめぎあっていくのが楽しさのひとつです。なので、そもそも自由なのですが、今回はとくに注意しました。貼りたかった場所にすでに貼られていたり、畑にもっとたくさんの人参を貼りたいのに貼れないという時も、「ここにあったらいいなぁと思うところに貼ってもいいよ」、「こんな貼り方もたのしそうだよ」と別の選択肢を提示してあげたり。すると子どもたちも子どもたちなりに考えるようになっていくんです。

紙を貼り重ねるだけでなく、折ってから貼る、立体的に作る、など色々なことができるんです。私以上に子どもたちのほうが柔軟で、逆に私のほうが紙の使い方や色彩感覚を子どもたちに教えてもらったような感じでした。

子どもたちは、見たままを作るんじゃなくて、こうだったりいいなっていう想像のものを紙で再現しようとします。だから、動物は立体的に作りたくなったり、上のほうに伸ばしてみたり、丸めてみたり。私のほうが「コラージュとはこういうものだ」というものを無意識に自分のなかで決めつけていたかもしれないと思いました。子どもたちの表現には、いつも新しい発見がありました。

—子どもたちに伝えたいメッセージのようなものはありましたか?

佐藤:子どもたちに伝えたかったのは、生活のなかから出てくる紙には、その人の暮らしの痕跡、町の息づかいも感じられるものだということです。包装紙って、町に溢れていますよね。その紙自体にも、いろいろな人たちの関わりあいや考え、物語があってそのデザインになっている。そこには人が人へ伝えたい想いがやさしく込められているということだと思います。

それは、大人向けのワークショップでも、今回の学校連携でも同じなんですが、ひとりひとりと分割された存在なのではなくて、相手の人を直接知らなかったとしても、たった1枚の紙に、いろいろな人たちの手やアイデアが詰め込まれているということです。それが分かるだけで、じゃあ自分も誰かのために何かをしてあげたいとか、何かをしたいとか、そういう気持ちになるといいなあと思っています。なんというか、関わりあいのなかに日常があるということだと思うんです。

 

子どもたちに伝えたかったのは「ひとつのデザインにも多くの関わりがあること」だと佐藤さんは語る。

 

—改めて、佐藤さんにとっても収穫の多いワークショップになったようですね。

佐藤:先生たちからも、「こういうことをもっとやっていきたい」と感想を頂きました。何だかよく知らない人がきて、何かを一緒にやるだけで、子どもたちはワクワクして、積極的になれるんだそうです。それに、コラージュのやり方を覚えたおかげで、後日、クリスマス用のリースを作った写真とお手紙をを送っていただいたり、ワークショップで作った地図にまた新しく何かを貼り足したりと、その後の動きにも繋がって、とてもうれしかったですね。

それに、紙というのは、基本的には暮らしのなかで出るものなので、コラージュをつくるというのが頭にあるだけで、ただゴミにしてしまうのではなく、ちょっと貯めがいができたり、集めたりするのが楽しくなってくるんです。すると、じゃあ今日はあの店の包装紙が欲しいから今度久しぶりに行ってみようかなとか、誰かからもらったおみやげが余計に楽しくなったり、そういうふうに暮らしがちょっと楽しくなる。そういうことも伝わって、本当によかったと思います。

改めて思うのは、子どもたちに教えているようで、私も教えられていて、先生も教えられているということの面白さというか。私自身、自分では思いつかないような使い方を子どもたちがしていて、これはもうお互いに学びあってるんだなと。そういうことが、この学校連携の面白さなんじゃないかと思います。

 

プロフィール 佐藤 洋美(さとう・ひろみ)
1985年福島県伊達市出身。多摩美術大学 造形表現学部を卒業後、GRAPH入社。北川一成に師事。
「捨てられない印刷物」づくりに携わる一方で「捨てられた印刷物」を収集し、コラージュ制作も続ける。
現在キャッサバ コラージュデザイン代表。コラージュや印刷を駆使した、手触りのあるデザインを提案。
いわきうふふ便(いわき )、はじまりの美術館《絶望でもなく、希望でもなく》(猪苗代)
ナラノハ(楢葉)など
県内でのデザイン多数。
2014年 時計ブランド「Time Lag」を開始。