ワークショップの後も残る気付きを子どもたちに

今年、南相馬市で開催されたアートプロジェクト「南相馬ジョッキーズ」。ディレクションを担当した「フライデースクリーン」の2人に、企画について詳しく話を聞きました。

INTERVIEW

フライデースクリーン | クリエリティブユニット

ワークショップの後も残る気づきを子どもたちに

今年、南相馬市で開催された「南相馬ジョッキーズ」。子どもたちに芸術の魅力を伝える「アートで広げるみんなの元気プロジェクト」の一環として開催され、南相馬市の子どもたちが、地元の伝統的神事「相馬野馬追」をテーマに騎馬武者と旗をつくり、それが1枚のアート作品になりました。ディレクションをしたのが、福島市を拠点に活動するクリエイティブユニット「フライデースクリーン」の鈴木孝昭さんと坂内まゆ子さん。企画に込めた思いや、子どもたちへのメッセージを伺ってきました。

取材:小松理虔(ヘキレキ舎) 構成:千葉雄登

 

—企画のお話に入る前に、まず「フライデースクリーン」というユニットについて聞かせて下さい。どんなデザイン事務所なのでしょうか?

鈴木:私たちは「何の」デザイン事務所ということを打ち出していないんです。普通のホームページやグラフィックの相談もありますし、ワークショップの依頼やイベント企画なども行います。どこそこで何かしたいとか、もっと人に楽しんでもらうためにどうしたらいいか、とか、何のデザインなのはよく分からない相談も多いです。

坂内:それから企画モノも。アートに近いモノや今回のワークショップのように子ども向け、お母さん向けのお仕事が多いんですよ。以前も、福島県立美術館でワークショップをたくさん集めた企画を行ったことがありました。そういう企画を見てくれた方から相談を頂くこともあります。

—フライデースクリーン自体はいつから活動が始まったんですか?

鈴木:結成したのは2015年です。もともと僕は福島市出身で震災後に戻ってきました。市内のデザイン事務所で3年間働き、独立して立ち上げたのがこの事務所です。

坂内:私も2011年に福島に帰ってきて、もともとあった「福島藝術計画」の事務局の仕事をしていた時に、鈴木が務めていたデザイン事務所に仕事をお願いしたりするなかで知り合いました。ちょうど独立のタイミングだったこともあり、一緒にやろうと。

 

南相馬市博物館に展示された作品。この日は展示の最終調整のため、二人は博物館を訪れていた。

 

武士にとって命と同じくらい重要な旗指物。そこに子どもたちが色とりどりの動物たちを描いていった作品。

 

—今回の企画展ですが、テーマは野馬追です。もともと2人のアイデアだったんですか?

鈴木:そうですね、まず「南相馬でワークショップをしたい」という依頼から始まって、それでまず頭に思い浮かんだのが野馬追でした。地元に根付いた伝統行事ですし、地元の子どもたちもきっと愛着があると思いました。それに、外から南相馬にやってくる人たちにも、野馬追であればよりイメージしやすいかなと考えました。

坂内:南相馬では大きな植樹祭も行われるので、そこで何か盛り上げられるような企画がいいと思ったんです。たとえば、遠くからでも見える作品だとか、そこにくると「おや?」っと目を向けてもらえるものとか。それぞれのジョッキーは小さな作品なんだけれど、それが集まってひとつの大きな作品になるようなものができれば、植樹祭の盛り上がりにもプラスになると思ったのもありました。

鈴木:具体的には、まず子どもたちにジョッキーと旗のデザインを考えてもらって、統一された下地にしたがって、各々が自由にシールを貼って、ジョッキーと旗を作るというものです。旗にはそれぞれの子どもたちの考えた架空の動物の絵が描かれています。怪獣とか、ミジンコとかいろいろあって、しかもそのひとつひとつにストーリーがあるんです。僕たちのスタイルって、ゼロから何かを表現したいというよりも、何かを伝えたい人がすでにそこにいて、僕らはその人たちにレスポンスするようにして作品をつくっていくという感じで。だから今回は野馬追にちなんでジョッキーズでいくことになりました。

—制作のプロセスはどんなものなのでしょう?

坂内:最初は子どもたちに質問をしていくんです。クイズ形式で、なんの動物が好き?というところから具体化させていきます。

鈴木:最初から絵を書こうというわけではなく、最初はイメージを膨らませていく時間が大事だと思うんです。そこさえ固まっていれば、あとあと形を作ったりという時間が楽しくなりますし、作業も進みます。イメージを膨らませていく時間を大事にしたいのと、僕たちの考えを押し付けたくないので、できるだけ子どもたちの答えを引き出すのに、クイズ形式にしています。

坂内:子どもたちに任せて色を塗るのもいいですが、絵を描くと個人差が出やすいんです。だけど、シールなら幼稚園前の子でもできるし、大きな子も楽しめるんです。上手か下手かも関係なくできるということで材料にはシールを選びました。クラスのなかにも、「わたしは絵が下手だから」って決めつけちゃう子っていますよね。それってもったいないと思うんです。

 

完成した作品を前にポーズを決める参加者たち。記念に残る作品となった。

 


大きなフラッグの作品だけでなく、今回は動画も作成された。それがこちら

 

—完成した作品も、ひとつひとつは個別の子どもたちの作品ですが、ちょっと離れたところから見るとジョッキーがとても元気よく見えてきますね。自由なんだけれど、そこに一定の規律があって。お二人のデザイン思考が感じられる作品にもなっていますね。

鈴木:全部ゼロからやるとどうしても “わちゃわちゃ” しちゃうじゃないですか。だからある程度のフレームはこちらが作ってあげたほうがいいと思っていて。特に今回は子ども向けのワークショップですし。そして、そこにはやっぱり統一感が必要です。それで子どもだからこそポップな感じで貼れるように、雨風にも強いシールを選びました。

坂内:大事なのはルールというか制約ですよね。あえて制約はつくります。私たちの仕事はクライアントワークがほとんどです。お客さまから「こうしてください」というオーダーがあるなかで、でも、自分のためのデザインもしたいなと思っているんです。

鈴木:できる限り斜め上のところに着地できるようにしています。だから題材もできるだけ身近なものを意図的に選んでいます。以前も、会津若松の中学校でやらせてもらったワークショップがあったんですが、身近にある音を探すために、レコーダーを持って学校中を歩き回ってもらったんです。普段聞いている音も、改めて自分から寄っていくと違う音に聞こえるんです。

坂内:そういう気づきって、ワークショップが終わった後も残ると思うんです。もともとフライデースクリーンを立ち上げた時のテーマが「地域資源を発見して、発信していく」というものでした。子どもたちが地元の良いところを発見できたら、そこに住むことが楽しくなると思います。それが将来的に地元に帰ってくるというようなことにつながるかもしれませんし。

鈴木:そうですね、確かに何かを持ち帰ってもらうことは意識しています。何か一つでもきっかけを届けたれたら、僕たちが離れた後もその気づきは残りますから。

 

絵について解説して頂いた坂内さん。福島を中心に県内各地でワークショップを行っている。

 

ジョッキーたちの「旗」に、子どもたちの描く架空の生き物たちが躍動している。

 

—改めて、今回のワークショップでお二人にとっての収穫はありましたか?

坂内:そうですね、クイズをしているとき「南相馬のいいところは?」って質問したら、たくさんの子たちが「人がいい」っていうんですよ。これって他の地域だとなかなか見られないので面白いなと思いました。それだけ地域のことを思っているんだなと伝わってきました。震災後、浜通りの子どもたちは大変なことも多かったと思いますが、子どもたちのよさを引き出すのも私たちの仕事なので、今回は、そういう言葉が出てきたところもそうですし、作品も形になったので、とても思い出に残る仕事になったと思います。

鈴木:雨にも強い素材を使っているので、植樹祭のときにも、このジョッキーの作品のところに、多くの子どもたちが集まってくれたらと思いますし、その時に「フライデースクリーン」という名前も誰かの記憶のなかに残ってくれたらいいと思います。なんかやっていることはよくわからないけど、フライデースクリーンっていう人たちがいるらしいよとか、ユニットの名前なのか、プロジェクトなのかよく分からない状態で、なぜか名前だけがだけが一人歩きしていく。そんな活動を続けていきたいと思います。

 

 

プロフィール フライデースクリーン
From Local, For Local, With Local をコンセプトに活動する、鈴木孝昭と坂内まゆ子によるクリエイティブユニット。
アート作品の制作や、地域に密着したプロダクト、グラフィック、空間といったデザインのほか、
イベントの企画や運営、他分野の専門家とコラボレーションした商品開発やワークショップを行うなど、
ジャンルを問わない様々な活動をコミュニケーションという視点で行っている。